Research And Education

教育体制

教育の基本的なポリシー

京都大学の特徴である自由と個性を尊重します。オフの時間の使い方や専門研修後の進路は本人の選択に委ねています。私たちができることとして、皆さんが「自分はどんな人間なのか」「社会から何が求められているのか」「どうすれば充実した人生を送れるのか」といった問いについて真剣に考え、語り、体験するのにふさわしい場を提供するよう心がけています。
一方、医療に携わる立場として、オンの時間は「やるべき時にやるべきことを」という規律を求めます。学生として、研修医として、専門医として求められる知識・技能・態度を身につけてもらえるよう努めています。

学部教育

講義(3年時)や臨床実習(5年時)のほか、早期体験実習(2年時)、マイコース(4年時)、イレクティブ実習(5~6年時)などで精神医学を学ぶ機会を設けており、研究や翻訳に携わったり、国内外の施設を見学したりすることも応援しています。平日の夕方や週末に開催されている勉強会のほとんどは、学生(他大学・学部を含む)にも開放しています。また、例年8月に開催している2日間の「夏のセミナー」には、日本全国から20~30人の医学生・研修医が参加します。

初期研修

2020年度から精神科での研修が必修となり、京大病院で初期研修をする方は1~11か月間、精神科で研修を行います。10名程度の入院患者の診察を通して、一般的な精神疾患(統合失調症、気分障害、認知症を含む器質性障害)の診断と治療を学びます。また、初診患者の予診・陪席や種々のレクチャーなどを通じて、精神医学の基本的な考え方や知識を学ぶことができます。

精神科専門研修

京大病院および関連施設での3年間の研修で、幅広い知識と経験の獲得と、専門医および精神保健指定医の取得を目指します。詳しくはこちらをご覧ください。

生涯学習

たとえば30歳前後で専門医となったとして、それからの職業人生は30年以上、もしかすると50年に及ぶかもしれません。その間、学問・科学技術の進歩や社会の変遷に適応していく必要があります。
そんななかで、共に学ぶことができる数多くの仲間や先輩・後輩がいるということは、人生で大きな財産となります。当医局の医師は勤務医や開業医、教育職にとどまらず、行政、司法、専門研究機関といった様々な分野で活躍しています。医療の枠組みにとどまらない、様々な専門性を持つ先生方との緩やかな繋がりを持つことは、皆が個々の課題に向き合うための大きな助けになることでしょう。

研究分野

研究の基本的なポリシー

神経画像技術と認知心理学的手法の組み合わせによる精神疾患の病態解明が、当教室の研究の大きな柱です。現在、研究の対象としているのは、統合失調症、うつ病(特に治療的介入の影響について)、脳損傷後の認知や行動の障害(高次脳機能障害)、行動嗜癖(ギャンブル依存など)、ライフスタイルと精神症候、摂食障害(神経基盤、治療)、児童思春期精神医学などです。感情や社会性など、精神医学の中核的問題に迫る研究および効果的な治療を様々なアプローチから追求する研究を実施しています。

神経心理学研究

神経心理学とは、ヒトの行動の神経学的基盤を探索する学問です。脳卒中に伴う失語症学からこの学問は発展し、第6代教授の大橋先生以来、本学に伝統的に根付いている領域です。近年では脳卒中だけではなく、外傷性脳損傷や若年性認知症などの様々な疾患における性格・行動変化の基盤を探る試みがなされるようになっています。本研究室では、外傷性脳損傷の性格・行動変化の神経学的基盤を中心に、もやもや病、脳腫瘍、あるいは月経前症候群などについても、症状の神経基盤を探る試みを、脳神経外科、脳神経内科、小児科、婦人科などと連携しながら進めています。

統合失調症研究

統合失調症は妄想や幻聴、情緒反応性の低下、軽度の認知機能低下などが見られる疾患です。統合失調症とは何か、という問いは精神医学の始まりとともにある、古くて新しい問いです。私達は各種の脳画像法を用いてこの問いに取り組んでいます。一方、妄想や幻聴は一見、異常な体験に思えますが、実は一般人口の1ー2割が同様の体験をしています。私達は認知課題や計算論的理解により、妄想や幻聴の成り立ちを研究しています。また統合失調症の症状は、既存の治療薬に抵抗性であることもしばしばです。私達は新規の治療法・リハビリテーション法の研究を通じて、患者さんのリカバリーを支援しています。

https://schizo-research-kupsy.com/

うつ病研究

ここ20年間ですっかりメジャーになった「うつ」ですが、「うつ」の生物学的な基盤や治癒過程でおこる変化については意外なほど明らかになっていません。

「うつ」は生物学的に異なる病態の混合であると考えられており、臨床の場では、あるうつ病患者さんには有効な治療法が別の患者さんには効果が出ない、ということが頻繁に起きています。
私たちは患者さんごとの病態の違いという「横断面」に加え、治癒の過程という「縦断面」に注目して、構造・機能MRIと心理的評価、そして先進的な生化学的指標を用いた気分障害の研究を進めています。
周期性や精神病症状の有無は生物学的にどのように紐付けられるのか、薬物療法、認知行動療法や電気けいれん療法はどのようにしてうつ病を治癒に導くのか、といった探求を通して「うつ」の臨床に寄与することが私たちの目標です。

気分障害における寛解と回復に関連した神経回路基盤の解明に資する縦断 MRI 研究(外部サイト)

行動嗜癖研究

行動嗜癖という言葉はあまり聞きなれないものかもしれませんが、物質を伴わない「依存症」である「ギャンブル障害」や「ゲーム障害」などを指します。行動嗜癖の患者さんは、脳に直接影響を与える依存性の高い物質を使用しているわけではないので、行動嗜癖の患者さんの脳画像データを様々なデータと組み合わせることで、物質の影響を取り除いた「依存症」の中核となる特徴を明らかに出来るのではないかと考え研究を行っています。「依存症」は決め手となるような生物学的な治療が確立されておらず、数ある精神疾患の中でも治療に繋がることが少ない一方で、うまく治療に繋がり人間的に成長された患者さんには医療者側も癒される、取り組みがいのある疾患です。一緒に「依存症」にチャレンジしてくれる仲間を募集しています。

私たちは、各々異なるライフスタイルのもと日々暮らしています。生活習慣のバリエーションは脳の可塑的変化を通じ、情動・認知・心理(精神)面に影響し、精神疾患の発症・予後に密接に関係します。「最適な生活習慣の見極め」:すなわち、現代に特有な習慣としてのIoT使用、運動、食習慣等あらゆる生活行動に関連する心理・脳神経基盤を調べ、モチベーションやレジリエンス等の社会生活の中で必要とされる心的指標のメカニズム解明、不安抑うつを呈する疾患の診断・治療および、ごく身近にありうる不調のセルフケアに役立てていくことを目指しています。

摂食障害研究チームは、摂食障害患者さんが、より良い治療を受けられる未来に向けて、病気の理解、治療、予防に関する研究を行っています。研究手法としては、摂食障害特有の脳の活動や構造を明らかにするためにMRI (magnetic resonance imaging) を用いています。今後はさらに、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)やtDCS(経頭蓋直流電気刺激)などの安全な非侵襲的脳刺激法の治療応用に関する研究、②マインドフルネスを用いた摂食障害の発症予防に関する研究、③学生を対象とした調査研究、などが計画されています。

「神経発達症」いわゆる発達障害は他の疾患と比べて歴史がまだ浅く、メカニズムも治療方法も確立していません。我が国では2005年発達障害支援法が施行され、診断や治療のニーズが大幅に増加するとともに、その本質を明らかにする研究への期待も高まっています。児童思春期研究チームでは、複数の研究機関と共同し、MRIや遺伝学的手法、行動観察など様々な手法を用いて研究を行っています。さらに、学内の各部門と連携して、神経発達症の臨床・研究ネットワークを構築し、より効果的な支援方法の在り方を模索していきます。

臨床実践に支えられた多様な研究領域を対象として、国内外の研究グループと共同し、独自性豊かな研究を推進し、社会に還元して行くことを目指しています。これらの研究に参加している当教室の医師をご紹介します。